Siriusの話 |
4月に生徒が子猫を二匹連れてきた。太鼓の中に布を敷いておいてあったという。一匹は全身真っ白、一匹はさび猫という毛並みらしいのだが、どちらかというと黒。ひたすらミャーミャー啼いている。みんなが近寄って食べ物をあげようとするのだが、食べない。まだミルクの時期なのだ。 自宅に連れ帰り、とにかくミルクを飲ませなくちゃと、近くの動物病院へ連れて行った。診察しなければミルクを売らない、という。仕方ないから、ずっと待っていた。小一時間かかってやっとミルクを買えた。小さな缶一つ800円也。2缶買った。ところが2匹で飲むと三日もするとなくなってしまった。また2缶買った。どうもこの調子だとミルク代が堪らない。ネットで検索して大きめの缶を注文した。1500円也。欲しくもない動物を飼っているのだから、ぼやきたくもなる気分だった。 授乳しなくてはならないので家においておけない。学校の行き帰り、バッグに入れて連れ歩くしかなかった。全く閉め切るわけにはいかないので口を開けておくと、時にはそこから頭を出すのでほとほと困った。満員電車では、押しつぶされないように気をつけなければならなかった。学校に着いたら、進路指導室の段ボールに入れておく。授乳が大変で、授業と授業の合間10分では足りない。そのうち、生徒たちが来て、いじりまわす(?)ので、ミルクをやって、と依頼するようにした。(そうでもしなければ、こちらはトイレにもいけない。)名前はみんなで申し合わせたように、「シロ、クロ」と呼んでいた。また、Sirius(黒猫を後にそう命名した)が白猫のおちんちんをしゃぶってしまうのである。そのせいで白猫のお腹は擦れて赤くなってしまった。嫌がってよけるのだが、Siriusのしつこさには負けてしまう。また逞しさでもSiriusが勝っていて、哺乳ビンが一個しかないので順繰りにあげるのだが、白猫にあげていると頭を突っ込んで横取りしてしまうのである。まあ、そういうわけで、白猫の胴をストッキングで腹巻きしてみた。だが、駄目だった。ストッキングの下に頭を突っ込んでしまう。結局は目にするたびにSiriusを離していた。 こうして学校に行ってる間はいいのだが、午後出張で、出張先から自宅へ直行で帰宅という日があった。悩んだけれど、どうしようもない。出張先へ連れていった。幸いに広い講堂での講演だったから、椅子の背もたれにバッグをかけて聴いた。時々首を出すので、掌で頭を押さえ押さえて...私の席の後ろの方は気づいたと思うが、幸いに啼かなかったのでよかった。 そのうちに白猫は貰い手がついていなくなった。残ったのはSirius。顔の毛並みが左右まるでアンバランスで近所の方からは「おかちめんこ」と言われた。そのうち5月1日。メーデーか映画教室か、で学校には行かないし、一日外だから授乳もできない。仕方ないから、家においておくことにした。――心配しながら帰宅してみると、けろっとして生きてた。我が家には元から二歳上の飼い猫Shinがいて、Shinのドライフードを食べていたのだ。そうして、結局Siriusは貰い手がつかず我が家の猫になってしまった。 ![]() ![]() 私が勤めに出るとき、玄関までついてくる。啼いているのだが、勿論振り切って鍵を閉め出かけてしまう。お隣の方がいうには、そのあと暫く啼いているのだそうだ。Shinはそんなことがないのに。帰宅した時は二匹で玄関に迎える。 一年経った頃、Siriusは尿路結石になった。食餌療法、薬を一年やった。トイレであまりの痛さにウォーとうなるほどひどかったが、食欲は衰えなかった。結局どうも駄目で、手術した。幅1cm長さ2pくらいの平べったい石が入っていた。ついでに避妊手術もした。それで散歩を兼ねて多少外に出していいだろうとSiriusだけは外出させる。遠出しないで、道路向かいの家2軒と隣しか行かない。私が外へ出るといつの間にか近づいてきてそばにいる。車や自転車、歩行者、音がするとさっさと我が家の敷地に戻る。猫って臆病なんだね。 猫用の出入り口はない。引き戸は自分で開ける(そのあと閉めてくれるといいんだけどね)。ドアは出たいときに啼くのだが、よくよく見てるとドアノブに手を差し出している。一緒に外にいて、「帰るよ」と言うと、だだーっと玄関に走る。ドアを開けてやってもなかなか入らないので、「閉めるよ」と言ったときも同じでフルスピードで中へ入る。多分、私が出たら、そのままドアの外にいようとしてるのだと思う。ところが「閉めるよ」で私の意思がわかり、締め出しを食らう前に入るのではないだろうか。結構言葉を理解するものである。 Siriusが我が家の住人になってもう5年経つ。学校に動物を捨てていいわけはないのだが、よく捨てられる。その前の勤務校には生物部というのがあって、鶏とうさぎを飼っていた。顧問の話によると、小屋の近くに捨てられるという。それで雄鶏が増えてしまったのだそうだ。うさぎも捨てられていた。うさぎが外を走り回っていたのでうさぎ小屋に入れた、という電話を別の先生から夜に貰ったという。その先生は飼っているうさぎが逃げた、と思ったのだそうだ。顧問はその夜のうちに学校へ駆けつけた。すぐ赤ちゃんが産まれるので困ると考えたからだ。捨てられていたうさぎは病気だった。結局、その顧問はそのうさぎを自宅で飼い、自前で治療していた。 猫を捨てるにしろ、最低限、自分でえさを食べるようになってからにして、と望みたい。 |