AET


Assistant English Teacher 省略してAET。誰を採用するかは学校に任され一年契約である。学校で特に誰と希望しない場合は都教委に任せるが、私の場合は前任者が気に入った場合、「誰か知らないか」とその人に紹介してもらっていた。その方がアタリだったと思う。

いろいろなAETと一緒に授業をした。基本的には楽しかったと思う。専任として気を使うことは生徒とトラブルを起こさないかということである。

私が空き時間で職員室にいたら、産休代替の講師が近づいて来て、「AETが授業をほっぽりだして帰ってしまったのだが、どうしたらよいか」と相談。てっきり生徒が悪さをしたのだと思ったのだが、話を聞くと、「教室へ入り、教卓に座って早口の英語で喋っていたかと思うと、君たちは勉強したくないんだな、わかった、と出ていってしまった。」とのことで、身支度して本当に帰ってしまい、講師に一言の断りもなかったらしい。生徒からすると意味不明でポカンだったのではないかと思う。そのAETはそれっきり。教頭が連絡をとっても「自分はノイローゼだ」と受けつけなかったそうである。

私と一緒の授業であったこと。AETと生徒を半分ずつ受け持って、窓側と廊下側から机間を会話しながら歩いていた。そのうち、AET側はドタドタ走る音がして、見るとAETが男子生徒を追いかけまわしている。若い女性である。初めはふざけているのかな、と思ったのだが、最後は生徒を組みふせて、ものすごい剣幕で怒ってる。AETは「生徒が尻を撫でた」というのだ。それを聞いて、私もそんな痴漢行為は許されない、と思ったのだが、生徒は「自分のお尻で先生のお尻をぽんと突いた」んだそうだ。いたずら心を起こしたのだ。見掛けは“男”なんだけど、精神的には“子ども”の生徒がたくさんいる。最後はAETもわかってくれたのだけど。生徒自体はちょっとしたいたずらが大ごとになってびっくりしたかと思う。

もうアメリカへ帰るから契約更新はしない、というAETがいて、そのAETに紹介してもらったのがM。どんな人か、と聞いたら、フッと笑ってvery big guy(大男)とか言っていたが。Mにはあらましのことを伝え、4月になったらまた連絡するから、と言っておいた。ところがMはAETをするのは初めてでnervousになっていたのだと思う。学校に電話をかけた。春休み中で私はいない。全然関係ない先生が電話に出た。この先生も面白い人で「○○先生はいるか、ときかれて外人だから焦ってYes,Yesと答えた。そのあとで、あれ、今日は出勤してないなと思って慌ててNo,Noと言ったんだ――よくよく考えたら、相手は日本語で言ってた、テヘ。」と後日談。Mとの最初の出会いも奇妙奇天烈。たまたま濃霧が立ち込め、校舎内に入りこんで床が水浸し。用務主事さんがゴムボーキで水をかきだしていた。Mは162kgの大男で、来客用のスリッパから足が半分はみだしている。「この水はどこから来てる?」と聞くから「外から」、暫くするとまた同じ質問。彼は奇異な感じがして、学校がいつも水浸しなのだと思ったのかもしれない。仕方ないから、「霧が壁にあたって水滴になり、垂れて床で水になっている」と答えたんだけど合ってるかしらん。わたしゃ物理の教師じゃありません。

実際一緒に仕事をすると本当に面白かった。そのMが「AETをやってみたら面白いからもっとやりたい、今度F高校に面接に行くから推薦書を書いてくれ」というので、本音でほめちぎって書いてやった。帰ってきて、「どうだった?」と訊いたら、さえない顔で「英語の先生たちがぐるりと囲んでいるくせに、話すのは一人だけなんだ、They are very weird people.」あんな変な人たちと一緒に仕事する気になれない、といったところ。「日本人はそれが普通なんだ、多分その人はチーフか担当者だろうと思うよ、となだめたが、「生徒が騒いだりしたらどうするか?と聞かれたから、自分はアシスタントだから専任の先生に任せると答えたんだが...」そのうちに当該F高校の教員から私宛に電話がきた。「Mを全然気に入らなかったのだが、もう三人目だし推薦書があるので本当のところを訊きたい」との話。Mは専任の先生をたてて出しゃばったことはしない、のつもりだったが、相手は、アシスタントだからと生徒の規律に関わろうとしない、と受け取っていた。「はっきりこうしてくれと言えばいいですよ、何でも言った通りにやりますから。」と説明して、結局採用となった。二年目も契約したから気に入ったんだと思う。

そのあと、私は異動して別の学校へ。下手糞なAETを変えよう、という話になって、Mにメールを入れた。返事はI’d like to except. 読み進んでいくと仕事をやりたいらしいのだ。で、わかったのはexceptではなくaccept。Mは話す方はとにかく、書く方は怪しい。永住権をとるから法務省に申請しなければいけない、この英文はどうだろう?と見せられたのだって、こっちが添削(^^;

下手糞なAETの例だが、教壇から動かない、ぼそぼそ説明し、生徒にリピートさせるだけ。テープレコーダーとどこが違う?という人。いろいろ要望したんだけど、その時だけ要望通りで、次回は元の木阿弥。生徒が左腕で頬杖ついているだけで、それを「rude(無作法)だ」と非難し、不機嫌。

話をAET候補者との面接に戻すと、上記F高校と似たような面接をしたことがある。やはりこちらの質問者は一人、ところが、質問に事欠いてあろうことか、Can you sing and dance? これじゃいくらなんでもびっくりする。自分はAETの仕事をしようとしてるのに、踊って歌うことが何の関係があるのだろう?と誰だって思う。微妙な顔をして眉の片方が挙がりました(^^; 要するに、生徒に英語をエンジョイさせられるか、多少なりともエンターティナーの要素をもっているか、位の意味なんですが、と補足説明したつもり。この方はオーストラリア人で、オーストラリアでは「エイ」を「アイ」と発音する地域もある(nameをナイム、eightをアイト)ので、それを確認、苦笑いしながら返事はNoでしたね。結果?採用しました。

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