闖入者


あの事件がもう8年も前とは本当に時が経つのは速いものだ。しかし、「附属池田小事件」を知らない人はほとんどいないだろうと思う。2001年(平成13年)6月8日、凶器を持った男が侵入し、次々と同校の児童を襲撃し、結果、児童8名が殺害され、児童13名・教諭2名に傷害を負わせたあの事件だ。

その事件の波紋として学校側の対応不足が問われ、その後、学校の安全対策がとられることになった。① 「警察官立寄所」の看板  ②監視カメラを設置 ③部外者の学校施設内への立ち入りを厳しく規制、警備体制を強化 など。

問題は③である。相変わらず文科省や都教委から安全対策を促す書類は来ていたが、各校どう強化しただろうか。門扉を閉めたといっても、開けることは簡単である。施錠することはできない。業者や生徒(遅刻・早退)の出入りが常にあるからだ。おまけに校舎内の出入り口はたくさんある。全部施錠したら火事のときにどうする?以前はどこからでも出入りしてはタバコを吸うので、施錠したら消防法違反とかで叱責をうけたことがあるくらいだ。部外者の立ち入りを規制するため、門扉に「部外者の立ち入り禁止、○○学校 校長」と看板をかけている学校が多い。

しかし、それが何だというのだろう。卒業生が「名前を記入するのが面倒くさい」というので、事務室前を通らずに生徒昇降口から入ってきた。自分のことを棚にあげて曰く「そんなの意味ないじゃないか。事件を起こそうという奴がわざわざ正式な手続きを踏むか?」。誰にでもわかる自明の理である。まあ、ワッペンをつけてなくて学校をうろついていたら怪しいということだが。

学校案内で何校か中学校に行ったことがある。ノートがおいてあって、そばに「訪問者はノートに記入してください」と貼り紙がある。自分で記入し、自分でワッペンをつけて、勝手に職員室を探して廊下を歩き回った。映画のようにワッペンをつけていなければ、扉が開かないという近代的ビルならとにかく。みんな手がふさがっているのだ。昔は警備員というのがいた。その職種をみんななくしてしまい、機械警備とした行政の責任はどうしてくれる?

そんなある日、部外者が校長室にたてこんで狼藉に及んだ。そもそも私が知ったのは廊下に怒鳴り声が聞こえてきたのである。生徒が教師を脅したり食ってかかったりということもあるから、最初はそういうことかな、と思ったのだが、聞き耳をたてると校長室からであった。ガラガラという物音と怒鳴り声。どうも生徒ではない。そのうち生徒指導主任が出てきて、「外部者だ、警察を呼べ」という。事務室へ駆けこんで警察へ電話してくれ、と頼む。ところが、電話しながら、室長が、「何歳?身長は?服装は?」と訊く。校長室のドアが閉まって中が見えないのだから、そんなのは知るわけがないじゃないか。悠長なことを言ってないで、どうでもいいから、早く来てくれよ、なんという警察だ、と思った。そのうち、まだ狼藉者が中にいるとわかって、すぐ来てくれることになった。どうも室長自体、何が起きてるか知らなかったらしい。入口で待っていたら、たった二人だけ、若造とまあ年配のおまわりさんがひょこひょこやってきた。実に頼りない。つい「二人だけですか?」と口から出てしまう。「いや、あとからもっと来ます。」入口でスリッパに履き替えようとする。切羽詰まっているのになんともはや。「そのままどうぞ。」と校長室に案内する。二人が中に入ったらそのまま音沙汰なし。部外者を連れ出すわけでもない。どうなっているんだ?

そのうち、ホワンホワンとサイレンを鳴らし、来るわ来るわ。パトカー3台位、覆面パトカー(?)一台、(こんなに来なくてもいいのに...外部に体面が悪いなあ)と私は内心焦った。後から来た警官は全員で6~7人ほど、入口から入ると次々とシャッと警棒(だと思う)を伸ばし、廊下を歩いて行く。盾を持っている人もいた。実にものものしい。

まあ、そのあと、狼藉者は御用となったのだけれど。あれだけ周りが大騒ぎしているのにちっとも逃げようという素振りがみえないし、「警察に電話」だって聞こえた筈なのに、といぶかしく思っていた。あとでわかったことには、この犯人の目的は「警察につかまること」だった。ありていに言えば、働かずに刑務所でただ飯を食べ、冬を越そう、という魂胆だった。O.ヘンリーの「警官と賛美歌」を地でいく話だったのである。

その後も、また部外者にどう対応するかが話し合われたが、抜本的対策は無いに等しいと思う。

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